PICTURE BOOK — STORY 8

忘れかけていた優しさ

2026.02.14 公開

その日、

つるるんとんのドアは、

少しだけ乱暴に開きました。

入ってきたのは常連客のタヌキ君。

なぜか眉間にしわを寄せています。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵01

「もうね、

 朝からなんですよ」

椅子に座る前から、

話は始まりました。

つる君が

クロスをかけ、

髪にハサミを入れると、

タヌキ君の言葉は

止まりません。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵02

「僕の妻がガミガミガミ言ってくるんですよ!

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵03

言い方ってあるでしょ?」

「こっちは悪気がないのに」

「なんで、

 あんな言い方するんですかね」

鏡の中の自分に向かって、

言っているようでもあり、

誰かに聞いてほしいだけのようでもありました。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵04

つる君は、

相づちを打たず、

否定もせず、

ただ手を動かします。

髪が短くなり、カッコよくなるにつれて、

愚痴は

少しずつ、

同じところを回り始めました。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵05

「昔は、

 こんな言い合い、

 しなかったんですけどね」

その一言だけが、

少しだけ

違う響きを持っていました。

カットが終わり、

るんちゃんに代わります。

お顔剃りが始まると、

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵06

タヌキ君の声は

自然と小さくなりました。

刃が肌をなぞるたび、

呼吸が整っていきます。

「ほんとにいつも忙しい中、よくしてくれてるんですけどね」

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵07

誰に言うでもなく、

自分に言い聞かせるような声でした。

お顔の毛穴洗浄。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵08

温かい蒸気に包まれて、

タヌキ君は、

ふっと肩の力を抜きます。

「毎朝、

 文句言いながらも、

 ちゃんと起こしてくれるんですよ」

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵09

「忘れ物したら、

 玄関まで走ってきたりして」

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵10

それはもう、

愚痴ではありませんでした。

「……まあ、

 怒るってことは、

 ちゃんと見てくれてるってこと、

 なんでしょうけど」

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵11
第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵12

極みヘッドスパ。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵13

指が頭を包み込むころ、

タヌキ君は、

ほとんど目を閉じています。

「毎朝、弁当作ってくれるしね……

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵14

結局、いい嫁さんなんですよね」

少し照れたように。

そして、いつの間にかウトウト。何か楽しい夢をみているようです。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵15

 施術がすべて終わり、

鏡に映ったタヌキ君は、来たときより、

ずっと穏やかな顔。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵16

「なんだか、

 気分が軽くなりました」

「……なんか」

タヌキ君が急にソワソワしだしました。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵17

「どうしたました?」

つる君がタヌキ君にたずねました。

「早く、

 奥さんの顔、見たくなりました」

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵18
第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵19

〈つる君とるんちゃんはズッコケたw〉

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵20

冗談のようで、

でも、

とても正直な言葉でした。

つる君とるんちゃんとロナは、

何も言わず、

いつも通り見送りました。

第8話 忘れかけていた優しさ 挿絵21

タヌキ君は

忘れかけていた

やさしい気持ちを

思い出し

いつもより

早足で帰っていきました。

〈おわり〉

物語の舞台となったお店で、
あなたもととのいませんか。

絵本の中のつる君・るんちゃんが、実際に施術を担当いたします。
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